2024.10.15 無期転換権ってなに?(前編)

無期転換権ってなに?(前編)

 

社長「Aさんは1年間の有期雇用契約を更新し続けて、もう6年目か。優秀で良い従業員だけど、いつ会社の業績が悪くなるか分からないから今後も有期雇用を更新する方向でやっていこうかな」

 

従業員A「社長、私を有期雇用契約から無期雇用契約にしていただけないでしょうか。」

 

社長「おお、Aさん!いつもいい働きぶりで感謝しているよ。けれども申し訳ない。うちは今後も有期雇用での契約を考えているんだよ」

 

従業員A「でも無期転換権があると思うので、それを行使したいのですが…」

 

社長「へ?無期転換権?」

 

意外と知らない労働関連法令の知識の一つとして、「無期転換ルール」というものがあります。

労使双方にとって大きな影響を与えるルールなのですが、知らない人も多いのがこのルールです。そんな無期雇用転換ルールを前編・後編と2回に分けて解説したいと思います!

 

■そもそも無期・有期の雇用契約って何?

まずは雇用契約の種類の無期・有期というものを説明していきます。

無期というのは「期間の定めが無い」という意味です。

例えば、雇用契約書の雇用契約期間が「2024年10月15日~」となっていれば、無期ということが読み取れます。

 

一方で有期雇用契約というものもあります。

これは無期とは逆で「期間の定めがある」ということになりますので、

雇用契約書上は、「2024年10月15日~2025年10月14日」のような表記をされます。

 

■有期雇用と無期雇用の決定的な違い・・・契約の更新の有無

基本的に有期雇用契約は、定められた期間の末日が近づくたびに「次の期間の契約更新するかどうか」を検討することになるのですが(すべての有期雇用契約が期間満了でOKとなるわけではないため注意が必要ですが、長くなるので今回は記載しません。)、無期雇用の場合は、基本的に契約期間の定めは無いので、「契約の更新」というものは有りません。雇用契約は存続し続けます。

 

 

この事前情報を頭に入れながら「無期転換ルール」を見ていきます。

 

■無期転換ルールって何?

同一の使用者との間で雇用契約期間が通算5年を超えて更新された際に、労働者からの申し出により、期間の定めの無い無期雇用契約へ転換するというルールです。

これは労働契約法に定められているルールです。

 

例えば、2024年4月1日にAさんがB商事に1年間の有期雇用契約を締結して入社したとします。その後、契約は更新を重ね次のように推移しました。

 

①2024年4月1日~2025年3月31日

②2025年4月1日~2026年3月31日

③2026年4月1日~2027年3月31日

④2027年4月1日~2028年3月31日

⑤2028年4月1日~2029年3月31日

 

ここまでで、AさんがB商事に入社して、5年です。

このまま6年目の雇用契約を下記期間で締結しました。

 

⑥2029年4月1日~2030年3月31日

 

すると、同一の使用者との間での雇用契約が5年を超えて更新されたことになりますので、Aさんは「無期転換権」という権利を持つようになります。

 

Aさんが「⑥2029年4月1日~2030年3月31日」の期間中にB商事に対して「私を無期雇用にしてください」と申し出た時に、その権利が行使されたことになり、会社はその申出を拒否することはできません。

 

つまり、雇用契約期間を有期ではなく、無期に変更しなければなりません。

(賃金、労働時間等を上げる必要までは求められていません。あくまでも契約期間を無期に変更することまでが法律で求められていることです。)

 

 

 

■無期雇用転換権の発生による雇用管理の難しさ

 

現在の日本では、60歳で定年を迎えたとしても、その後65歳までの雇用確保が義務化されております。

一番多く採用されている方法は60歳定年で、その後1年ごとに有期雇用契約を更新して、65歳までの雇用を維持するという方法です。

 

65歳までで雇用が終了すれば、雇用契約期間は5年を超えて更新されておらず、無期転換権は発生しないのですが、中小企業では、急な退職者、病欠者の発生によって、65歳で退職予定の人に「もう1年いてもらえないだろうか」と相談を持ち掛けることも考えられます。

 

そうなると6年目の雇用契約期間中に、無期転換権を行使されることが想定されますが、このようなケースだと既に定年年齢を超えているため、無期転換後に自然に雇用契約が終了するタイミングがなくなってしまいます。

 

労働者側はまだ働けると思っていても、会社側は若い世代を育てていきたいと思っていれば、社内に不協和音が発生し、雰囲気も良い物ではありません。

 

■定年再雇用者の無期雇用転換権の発生を防ぐことができる「第二種計画認定」

例外として特定(定年再雇用者)の無期雇用転換権の発生を防げる方法が1つあります。

「労働局に第二種計画認定を受ける」というものです。

この認定を受けると定年再雇用者に対する無期雇用転換権は発生しません。次回は後編として、その第二種計画認定についての詳細と認定の受け方についてお伝えしたいと思います。

 

もちろん、人手不足の昨今「うちは従業員が希望すれば、いつでも無期雇用になってほしいよ!」という会社もたくさんあるので、一概に会社に不利な制度かと言われればそうではないかもしれませんが、自社は大丈夫だろうかと一度考えてみるのもいい機会かもしれません。

 

 

第二種計画認定の届け出をご希望、または、有期雇用の制度、定年制度をしっかり定めておきたいという場合は、ぜひ第一コンサルティングまでご連絡ください。