2025.02.13 不利益変更ってなに??
社長「う~ん。Aさんの給料は毎月23万円か。少し高いな。お~い!Aさん!君、来月から給料22万円ね!!」
こんなのってありでしょうか。
こういったケースは労働条件の不利益変更に該当します。
さすがにこの例は何が「不利益」なのか分かりやすすぎますが、中には判断に迷う不利益変更もあります。
今日はそんな不利益変更について解説します。
不利益変更とは
まず、不利益変更というのは、従業員の労働条件を不利になるように変更することです。
冒頭に書いた例は不利益変更の典型例です。
このような不利益変更は基本的に行うことができません。
労働契約法の中に、
「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。~」という文言があるためです。
不利益変更は絶対に行うことができないの?
先ほど私が不利益変更は「基本的に」行えないと記載しました。
法律の中にも「労働者と合意することなく」と書いてあります。
つまり、裏を返せば「労働者の自由な意思に基づいた合意」があれば、不利益変更を行うことも可能ということです。
合意を得る方法 OK例とNG例
どちらのケースも「賞与は12月に基本給の3か月分支給する」と就業規則に定めている会社で、今回の賞与については、その支給額を1か月分に減らしたいケースとします。
対象従業員名:山田さん、田中さん、高橋さん
NG例
社長「山田さん、田中さん、高橋さん!ちょっといいかな。来月12月は賞与支給だよね。今回の賞与はいつものように3か月分じゃなくて1か月分にするから、この合意書に署名してもらっていい?署名しないと1か月分も支給できないからね。はい、ペンはこれ使って!いまササっと書いちゃって」
山田さん、田中さん、高橋さん「は、はい!署名すればいいんですね?(何かよくわかんないけど署名するか。)」
OK例
社長「山田さん、田中さん、高橋さんちょっといいかな。来月12月は賞与支給だよね。申し訳ないけれど今回の賞与はいつものように3か月分ではなく、1か月分にしてもらえないだろうか。」
山田さん、田中さん、高橋さん「何かあったんですか?」
社長「実は、取引先の〇〇工業からの入金が遅れているんだ。今、賞与を支給してしまうと会社の資金繰りが回らなくなってしまう。しかも、〇〇工業はうちの他にも入金が遅れている会社があるらしく、もしかするともうこのお金はずっと入ってこないかもしれない。この先いつか利益が出た時に今回の賞与分の穴埋めをできるように頑張るから、何とか今回は賞与支給額を1か月分にさせてもらえないだろうか。」
山田さん、田中さん、高橋さん「そういうことだったんですね。よくわかりました。今回は1か月分で構いませんよ。我々だってこの会社がなくなったら困りますし、もっと頑張って利益を出せるよう頑張ります!」
社長「本当にありがとう。今から合意書を配るから、この土日でよく考えて、それでも気が変わらなかったら署名した合意書を週明けに私まで渡してほしい。よろしくお願いします。」
上記がOK例とNG例です。
さすがにOK例の流れがうまくいきすぎていますが、イメージはこんな感じです。
OK例とNG例の差を見て不利益変更の合意を得るために重要なことをみてみましょう。
今回のケースは賞与の話ですが、以下はどんな不利益変更にも共通する重要なポイントです。
①どうして不利益変更する必要があるのかを丁寧に説明する。
自分の労働条件が不利に変わるのに、その理由も分からないのでは納得できるわけがありません。どうしてその変更を行う必要があるのかということを丁寧に説明して、合意を得られるようにしましょう。
②すぐにその場で合意書をもらおうとしない
NG例だとすぐにその場で合意書をもらおうとしている一方、OK例では従業員の方々に更に考える時間を与えています。
NG例のやり方で合意書に署名をもらえたとしても、従業員より立場が強いとされる会社の立場を利用して、実質的に署名を強制したとみなされる可能性があります。
署名を強制した合意書に効力はなく、後々、裁判で結果をひっくり返されることも想定されます。
合意における「自由な意思」を担保するためにも、合意書を渡してから1週間程度の期間をおくなどの方法で、従業員の方々に考える時間を与えるようにしましょう。
③その他
今回の例では触れませんでしたが、このほかにも「合理性」や「人選」もあります。
例えば今回の賞与のケースで言えば、「2か月分の不支給」というのが〇〇工業からの未入金額と比較して合理的なのかということです。
〇〇工業からの未入金額は10万円だけなのに、賞与のカット額は100万円なんてことであれば、そこに合理性はありません、賞与カットには他の理由があるとみられてしまいます。
そして今回は山田さん、田中さん、高橋さんの賞与がカットされていましたが、なぜこの3名だったのかということも説明できなければなりません。
「この3名は責任が重い部長職である」「この3名の部署だけ業績が伸び悩んでいた」などの理由があればいいですが、「なんとなく社長の嫌いな3人」という人選であれば、その人選は適切ではありません。
実は不利益変更になるかも・・・
これは不利益変更にならないよね?と思う場合でも不利益変更になる可能性は隠れています。以下がそういったケースです。
・アルバイトとの間でこれまで週3日出勤してもらう雇用契約を結んでいたが、それを週2日に減らしたい
→休みが増えてラッキー!と考える人もいるかもしれませんが、一方で給与額も減ってしまいます。これも不利益変更に該当する可能性は高いです。丁寧に話し合いを行いましょう
・入社したときに「配偶者がいる人には家族手当1万円」と規定されていたが、入社後になって「まだ配偶者がいない人は、これから配偶者ができても家族手当は5000円にします」という変更。
→たしかにこれまで家族手当が支給されていたわけではありませんが、将来、配偶者ができた時にもらえる金額が減ってしまいます。入社時と話が違うため、これも不利益変更に該当する可能性が高いです。変更の際は丁寧に説明して、合意を得ておきましょう。
いかがでしたでしょうか。
不利益変更というのは、とても複雑で対応には会社もパワーを使います。
進め方を間違えると後で大きなしっぺ返しを受けかねません。
何か変更したい条件等がある場合には、第一コンサルティングまでご連絡ください。
(変更後のリスクを0にできるとお約束するものではございません)