2025.02.25 退職代行業者から連絡があったときは・・・
社長「おはよう!みんな今日も元気に頑張っていこう!おや、まだAさんは来ていないのか。いつも早いのに珍しいな。」
社員B「社長!退職代行業者を名乗る会社からAさんが退職するという電話がかかってきています!」
社長「なんだって!?Aさんが退職!?退職代行!?どうしたらいいんだ!?」
「退職代行」という言葉を耳にされたことがあるかもしれません。
どんなものかは知っていても、実際に退職代行業者から連絡が来た時にどのように対応していいのか分からない方も多いのではと感じます。
本日はそんな退職代行業者から連絡が来た場合の対応方法について解説します。
~退職代行とは?~
退職代行サービスは、従業員本人に代わって、勤務先に退職の意思表示をしてくれるサービスのことです。
そんなことにお金をかけてお願いするの!?と思う方もいるかもしれませんが、中には何度会社に退職を申し出ても受け入れてもらえなかったり、会社の雰囲気的になかなか退職を申し出ることができないという人も多く、近頃利用者が増加しています。
~退職代行を受託している人・団体の種類~
従業員本人に代わって退職の意思を伝える人や業者をまとめて退職代行業者と呼ばせていただきますが、この退職代行業者にもいくつか種類があります。
まず一つ目は民間の退職代行業者です。
民間の退職代行業者は、従業員本人の「退職したい」という意思を会社に伝えたり、会社からの連絡事項を従業員にそのまま伝えることができますが、退職時の条件交渉を従業員に代わって行うことなどはできません。
言ってみれば、双方の言ったことをそのまま伝える使者のようなイメージです。
そして二つ目が労働組合(ユニオン)です。
勤務先に労働組合が無くても、従業員が個人で加入できる外部の労働組合(ユニオン)があります。労働組合には団体交渉権があるため、民間の退職代行業者と違い、退職の意思表示のみならず、退職条件に関する交渉、未払い賃金に関する交渉ができます。
最後に三つ目が弁護士です。
弁護士であれば、その従業員の代理人として、意思伝達、交渉、そして万が一裁判にまで発展した場合の代理人等ほとんどすべてのことを行うことができます。
~退職代行業者から連絡がきたら~
ここからは退職代行業者から連絡があった場合に、会社側がとるべき対応です。
①まずは相手方が誰なのかを確認しましょう
いきなり自社の従業員の退職を知らない人から申し出てこられて焦る気持ちは分かりますが、まずは相手方が誰なのか、会社名や個人氏名、連絡先を確認します。
そして、こちらで確認してから連絡する必要があるため、こちらから電話を折り返すようにしましょう。まだこの段階では、ただのいたずら電話の可能性も捨てきれていません。
②委任状を要求
インターネット等を使って相手方の確認が取れたら、次は従業員から電話をしてきた人・会社に退職代行サービスの委託があったのかを確認するために、「委任状を見せてください」と伝えます。これはメールやFAXでもらう方法で良いでしょう。
従業員から本当に退職代行サービス利用の依頼があったのかをここで確認します。
「万が一、委任状は無い」と言われた場合には、「委任状を見せてもらえないとこの話をあなたとはすることができない」と伝えましょう。
従業員の意思も確認できないのに、初めて会話する人とその従業員の話をすることなんてできなくて当然です。本当に依頼を受けているのか分かりません。
③退職条件の調整
委任状が確認できたら、その相手方は本当に自社の従業員から「会社に退職を伝える」という業務を受託しているのでしょう。
ここまでくると具体的な対応に入っていきます。
「退職日の確認、退職届の送付依頼」
「貸与物の返却方法の確認」
「引き継ぎ書の送付依頼」※有る場合には
を行いましょう。
この時、民間の退職代行業者から未払い賃金に関する交渉などが出てきた場合には、「そういった行為は非弁行為に該当するはずだから、本人からの書面をください」と伝えましょう。
※非弁(ひべん)行為・・・弁護士以外の人が、報酬を得る目的で法的な交渉事を行うこと。
退職代行の現場では、労働組合(ユニオン)、弁護士以外からの交渉については、拒否しましょう。対応しなければならないのは本人・労働組合・弁護士からの交渉です。
ただし、「●月●日に退職したい。貸与品は元払いで送付します。」等は、単純に意思を伝達しているだけなので、非弁行為には該当しないとされています。(個人的にはグレーゾーンという認識です)
従業員からの退職届が手元に届いたら、通常の退職者が発生したとき同様、退職に関する手続きを進めましょう。(社会保険・雇用保険の喪失等)
~退職日に関して~
例えば、退職代行業者が「〇月〇日付けで●●さんが退職する旨をお伝えさせていただきます。□日~×日は有給休暇を取得しますので、もう貴社に出社することはございません。」と言ってくるかもしれません。
こういったケースで、果たして本当に言われたとおりの退職日で処理をしなければならないのかという疑問もあると思います。
結論、実務的にはほとんどのケースで言われたとおりの対応をすることになると考えています。
よく就業規則や雇用契約書には「退職する場合には3か月前までに会社にその旨を申し出ること」といった表記がされていますが、実はこの文言は会社ルールに過ぎないのです。
というのも民法上、雇用契約の解約は二週間前に申し出れば足りるとされてます。(従業員からの解約の場合)
当然ですが、会社ルールよりも法律の方が強い効力を持ちます。
つまり、退職代行業者から伝えられた退職日が二週間後で、残りの期間は有給にするという主張も法的には問題ないということになります。
※実際問題、2週間で引継ぎなどを行うことはほとんど不可能だと思いますので、会社と従業員の信義に基づいたルール内で3か月などの期間を定めておくこと自体は何ら問題ございません。
※有期雇用の場合は、勤続期間が1年以上か1年未満かなども絡めて別な法的ルールがありますが、現実的な最終的対応方針としては無期雇用と変わらないと考えておりますので、本日は記載しません。
もっとひどい場合には、本日付けで退職なんてことも考えられます。
引継ぎを行っていないことに対して、損害賠償を請求したいと思われるでしょう。
もちろん二週間より短い期間で退職というのは法的には問題がある行為ですが、損害賠償を請求するとした場合、従業員のその行為によっていくらの損害が出たのかということを特定する必要があります。
損害額を特定する作業、請求するための弁護士費用、その後の手続きにとられる時間、請求したとしても裁判で本当にそれが認めてもらえるのかということを考えると、現実的対応ではないかもしれません。
これが、私が先ほど「実務的にはほとんどのケースで言われたとおりの対応をすることになると考えています。」と記載した理由です。
急に会社に来なくなって、音信不通になる方にも特に損害賠償の請求などは行わないことが多いと思います。
退職代行の場合は、本人の安否確認が取れるだけ音信不通よりはマシだったと割り切る部分も必要なのかもしれません。
~その後について~
割り切るとはいえ、退職代行の利用者が自社から出たことについては真摯に受け止めなければなりません。
なぜ直接申し出てこなかったのかということを検討し、改善すべき部分が会社にあるのであれば、しっかりと改善をして今後に生かしていきましょう。
退職代行会社と対立的に話すよりも、「うちの〇〇はなぜ御社を利用されたのですか?」と聞いてみてもいいかもしれません。
もちろん守秘義務があるため、教えてもらえないかもしれませんが、従業員が教えても構わないと言っている場合には、本音を聞くことができます。
退職代行業者の利用によって、円滑な引継ぎや会社の今後の課題が不透明になり得ます。
普段から労使の関係性には意識を向け、円滑なコミュニケーションをとっていけるようにしましょう。